家を建てるためには、多くの材料と、多くのエネルギーを消費します。
建主は、住宅を計画するとき、建設時の工事費(イニシャルコスト)だけを考えがちです。
住宅費用負担額は、次のように算定することができます。
住宅費用負担額=ライフサイクルコスト(総コスト)/存在年数
ライフサイクルコスト(LCC)とは、 建物が生まれ、存在し、消滅するまでにかかる総額 をいいます。
イニシャルコスト ランニングコスト メンテナンスコスト 解体コスト | 設計管理費・建設工事費・諸経費 光熱費等 改修費、修繕費 |
長寿命で存在年数が長いほど、年間あたり負担するコストは安くなるわけです。
長もちする方が、環境に負荷を与えないことは明らかで、環境保護の面からも、建主の財産上も、長く住める家が求められます。
長く住めるかどうかの分かれ目は、世代をまたがって住み続けることが
できるかどうかがポイントです。
それができれば、50年以上も難しいことではありません。
柔軟な日本家屋、柔軟性に乏しい戦後の家
日本家屋は、開放的で、各部屋はフスマ・障子で区切られ、外せば大部屋としても使えます。
昔は、父親を長として子供家族が同居し、10人を超える家も少なくありませんでした。
家族人数の増減にも柔軟に対応してきました。
日本家屋は、大きなライフスタイルの変化に対応できる様式として、生き残ってきたのです。
戦後、取り入れられた洋式の家は、日本家屋と違い、壁で区切られた個室で構成され、出入り口には扉が付いています。
皆があこがれたnLDKは一定の役割を果たしてきましたが、柔軟性に乏しいことがわかってきました。
日本人のライフスタイルの変化に対応できないのです。
住宅平均寿命の26年というのは、ほぼ世代が交代する期間に当り、家が世代交代に対応できないことを意味します。
現在の二世帯住宅は、プライバシーが要求され(完全分離等)、入居人数は少ないものの、さらに条件が厳しくなっています。
長く住める家をつくるには、常識にとらわれず、新しい解決策を追求する必要があります。
堅牢な構造
日本の建築環境は過酷です。
世界的にも最大級の地震、台風・竜巻の強風、ゲリラ豪雨に襲われる可能性があります。
風や雨は、過去の記録を上回るようなケースが増えてきました。
長寿命住宅をつくるには、これらに耐える「堅牢な構造」が必要、大前提です。
しかし、これら物理的堅牢さだけで長く住める家をつくることはできません。
変化に対応できる家
なぜ日本の住宅の寿命は短いのかで述べたように、日本は欧米と比べ、生活の変化が大きいといえます。
生活の変化:家を取り巻く環境が変化するのですから、それに対応するということは、家も柔軟に変わらなければいけません。
「変化に対応できる家」とは、簡単に家の使い方が変えられる、ということを意味します。
融通のきく家に長く住む
工事しなくても家を変えられる
環境が変化した時に、工事なしで家の使い方が変更できるようにします。
住宅は家族のためのものなので、機能ごとに部屋として区切る必要はありません。
機能ごとにコーナーをつくることで実現し、内部固定間仕切り壁を最小限とし、できるだけ1ルームにします。
これにより、拡がりのある空間をつくりながら、フレキシブルで変化に対応しやすくすることができます。
仕切りが必要なときは、家具や可動間仕切りで、工事することなく仕切ることで、外したいときも、柔軟に対応できます。
改修しやすい家:簡単な工事で
もっと大きく変えたいときは、工事が必要となります。
できるだけ改修しやすい家とし、簡単、安価で改修できるようにします。
スケルトン・インフィルという考え方が参考になります。
将来共変えない部分と、変更しうる部分を明確に区分します。
構造骨組(スケルトン)は、将来とも変えないので、自由度の高い間取りが取れるシンプルで堅牢な構造とします。
内部の壁(インフィル)は、改修しやすい軽い間仕切りでつくれば、簡単にローコストで内部の間取り変更することができます。
設備更新を考慮
エアコンや給湯器などの設備機器は、動く部分があるので、建築より耐用年数が短いのが一般的です。
設備機器は、先端のハイテク技術を持つ場合があり、技術は日進月歩進化し続けています。
例えばエアコンは、最新機種と10年前の機種とでは、省エネレベルが大きく違います。
耐用年数に達しなくても、最新機種に交換する方が、経済的でエコになることもあります。
給排水管などは、設備系では長寿命のものですが、配管材料や配管方式も時代と共に進化しています。
建物存在中には、更新することがあるかもしれません。
又、改修して間取りの変更で、トイレ、洗面、キッチン等、水回りを変更することもあります。
長く住める家をつくるには、これらの設備機器、配管の更新、変更をし易いような設計が必要です。